「言いにくいことを伝えるスキル」
こんにちは、西原哲夫です。
今回は、「言いにくいことを伝えるスキル」について書きます。
職場で生まれる、言いにくい気持ち
日々仕事をしていると、相手に対して自分の考えを言いにくいと感じることはありませんか?
その相手は、上司はもちろんのこと、お客さまや取引先さまだったり、同僚や部下であったりすることも。
たとえば相手が上司である場合
業務目標やビジョンを示してくれることは結構だけれども、正直、現場やお客さまのことをよく理解していないように見える。
このまま上司の言うやり方を進めてしまうと、お客さまに価値を感じてもらえる取り組みにはならなさそうだ。
それでも上司は自信満々だし、何より、上層部の幹部たちからの指示であるとも言っている。
うーむ、どうしたものか。
現場の状況を伝えてあげた方が良いと思う一方で、上司の感情を逆なですると、自分が上司から嫌われてしまうのではないだろうか。
それであれば、いっそのこと黙って従っておこうか。。。
たとえば相手が他部署の同僚である場合
自分は営業部門で働き、日々、売り上げを上げるために一生懸命にお客さまのサポートをしている。
急に商品を必要とされる時もあるから、できるだけ多くの在庫を手元に置いておくことが大切だと考えている。
それなのに、生産管理部門や経理部門から「在庫を減らせ!」と、いつも口やかましく言われる。
こちらの事情を伝えた方がいいのか悩んできたが、どうやって伝えたら良いのか分からないから、ずっと我慢してきた。
ただ、ことあるごとに言われるので、むしろだんだんと腹が立ってきた。
お客さまのことを考えているのは自分だし、売り上げを上げて会社に貢献しているのも、営業である自分だ!
あー、なんだかムカムカする。こんど在庫について言われることがあれば、ガツンと強く言い返してやろう!
職場のいたるところで言いにくさが生まれている
このように、相手が上司であろうと他部門の同僚であろうと、自分の考えを適切に伝えることができないと、それが望まぬ方向に進んでしまうことがあります。
あなたが上司で相手が部下であっても、評価面談のフィードバックなど、言いにくい気持ちというのは少なからずあるものです。
そして、職場のいたるところで起きるさまざまなイザコザは、元はといえばこういった「言いにくい気持ち」が原因であることが少なくありません。
言いにくいことがある時に起きること
本当は自分の中で考えや思いがあるのに、それを相手に伝えることができないと、何が起きるでしょうか。
沈黙か、言葉の暴力か
一つは、沈黙です。
自分の考えや思いを伝えられないから、沈黙をする。
沈黙をして我慢を続けていると、だんだんと自分の中で鬱積がたまっていきます。
その結果として、自分自身がイヤになってしまったり、その職場に嫌気がさして退職をするという選択をしたりすることが起きます。
もう一つは、言葉の暴力です。
いつも文句を言ってくる他部署の同僚に、ガツンと言い返してやろう!
ああ言えばこう言い返してくる部下に対しては、上司命令として強く言わないといけない。
このような気持ちを感じた時はありますか?
たとえ普段は温厚な人でも、自分の考えを相手に適切に伝えることができないと、だんだんと胸の中の思いが積もっていき、暴発してしまうことがあります。
沈黙であれ言葉の暴力であれ、誰にでも思い当たる節があるのではないでしょうか?
私の悪いパターン
私の場合は、言いにくさを感じた時に、沈黙をしてしまうことがあります。
自分の中に相手と異なる考えがあるにも関わらず、相手の感情を傷つけないように勝手に配慮して(相手がそれを求めているかも分からないのに)、自分が沈黙をするという選択をしてしまうのです。
言い換えると、対立を表面化させることを恐れる感情があるとも言えます。
ただこういった場合、相手のことを考えているようで、結局は自分の中で不満がたまっていき、どこかで我慢ができなくなって暴発してしまうことにつながります。
そうなる前に、ちゃんと自分の考えを相手に伝えることができれば、どれほど健全かと振り返ります。
言いにくいことを伝えるスキル
こういった、言いにくさによるモヤモヤを感じる時に、非常に助けになってくれるスキルがあります。
言いにくいことを伝えるスキル
言いにくいことを伝えるスキルは、3つのステップからなります。
ステップ1:事実を伝えて確認する
ステップ2:自分の考えを伝える
ステップ3:相手の考えを聞く
ステップ1:事実を伝えて確認する
まずステップ1として、事実を伝えて確認しましょう。
「あの時、こういうことが起きましたね。」
「あなたは先日、XXと言っていましたね。」
など、事実を確認することが重要です。
事実を伝えるとは、そこに感情はなく、ただ淡々と起きたことを確認するということです。
事実を確認するだけですので、あなたの中のモヤモヤした感情を表に出す必要もありませんし、それによって相手の感情を傷つけて対立に発展するリスクもありません。
話を聞いている相手も、事実に対しては感情的になりませんから、この時点でお互いに安心して対話に臨んでいる状態になります。
ステップ2:自分の考えを伝える
事実を伝えてから、ようやく自分の考えを伝えましょう。
その際、
「事実に対して、私はXXと考えました。」
「事実に対して、私はYYと感じました。」
というストーリーで話すようにすることがおすすめです。
というのも、同じ事実を共有していても、あなたが感じることと、相手が感じることとが、異なる可能性があるからです。
たとえば、上司が部下に対して「失敗しても良いからドンドン挑戦しよう!」と伝えていたとします。
その事実に対して、部下は純粋な気持ちで、
「よし、多少今の業務が犠牲になっても、新しいことに挑戦する時間を増やした方がいいということだな!」
と受け取ったかもしれません。
それに対して上司は、
「挑戦はして欲しいが、それは、今の業務をやり切った上で、まだ余力がある場合に限る」
と考えていたかもしれません。
最悪の場合、これがすれ違いとなり、
「(上司) 勝手なことをするな!」
「(部下) 方針がコロコロ変わってやってられない!」
と、対立に発展してしまう可能性もあります。
ですので、こういう時、
「先日のあなたのXXという発言・指示(事実)に対して、私はYYと考え解釈しました。」という伝え方が有効になってくるのです。
ステップ3:相手の考えを聞く
そして続けて、相手の考えを聞きましょう。
「事実XXに対する私の考えや解釈はYYでしたが、どう思いますか?あなたはどのように考えていたのですか?」
というようにして相手の考えを聞きます。
この時、同じ事実に対しても、あなたと私とでは、感じたことや受け止め方が違っていた可能性がありますね、というスタンスを示してあげるわけです。
こうすることで、相手にとっても、
「ああ、そうか、同じ事実に対してであっても、確かに受け止め方が異なる可能性はあるよね」
「つまり、相手と違う考え方であろうと、自分の考えを安心して伝えて良さそうだ」
と、考えてもらうこともできます。
先ほどの上司と部下の会話でも、
部下が「先日のあなたのXXというメッセージに対して、私はYYと考え解釈して行動したのですが、あなたの真意はなんだったのでしょうか?」
と、聞くことによって、上司側も、
「なるほど、XXというメッセージを出したのは自分だが、あなたが考えたYYという意味ではなく、実はZZという思いで伝えていたんだよ。」
と話すことができるようになります。
これによって、お互いの考えの違いを確認し、さらに改善するための次の施策を一緒になって建設的に話し合うことができるようになります。
相手に敬意を伝えることを忘れずに
そしてこれら3つのステップに加えて、もう一つ、とても重要なことがあります。
それは、相手に対して敬意を伝えることを忘れないということです。
「(上司に対して) Oさん、いつも私たちチームの成長をサポートいただき、感謝しています。その上で今回、ひとつ相談があります。」
「(部下に対して) Pさん、あなたが会社の業績向上に向けて努力している姿勢は、私にも伝わっています、ありがとうございます。その上で今日は、あなたの今後のさらなる成長に向けてフィードバックを提供させてください。」
「(同僚に対して) Qさん、いつもお客さまの納期に間に合うようにサービスを提供してくださり、とても助かっています。実は最近、あるお客さまからさらに納期を短くして欲しいと依頼が来まして、相談させてもらえないでしょうか。」
このように、最初にきちんと相手に敬意を示した上で、3つのステップにのっとって話を進めれば、感情的になってこじれるリスクが限りなく小さくなります。
給与交渉で言いにくいことを伝えたMさん
先日、私の元に、勤め先との給与交渉に悩んでいるとの相談を寄せてくれた、Mさんという方がいます。
Mさんのお話を聞くと、どうも勤め先からこちら側の足元を見られているように感じるくらい、提示された給与が低いようでした。
また、その会社で同じような仕事をしている他の従業員の話を聞いても、自分に提示された給与よりも高い金額をもらっていることが分かっているそう。
なんだかすごくモヤモヤする。このままではその勤め先での仕事に対するモチベーションも落ちてしまいそう。
でも、「給与を上げてほしい」なんて言うことは、自分勝手なようで言いにくい。さらに、嫌われて仕事がやりづらくなるのも困る。
だからといってこのまま黙って従うと、モヤモヤは残るし、後悔しそう。
そこでMさんと私とで、相手に敬意を示しつつ、3つのステップに沿って話を進める方法を考えました。
(相手に敬意を伝える)
今回このように、給与の設定を含め、お忙しい中に私の処遇について各方面から調整いただき、大変感謝しています。
その上で、提示いただいた給与について確認させていただきたいのですが、
(ステップ1:事実を伝えて確認する)
同じような職種、業界、地域、経験年数の観点から、社外の会社の給与レンジについてデータを調べ、事例を3点ほど持参しました。
ご覧いただけます通り、最低XX万円から最高YY万円という水準にあるようです。
(ステップ2:自分の考えを伝える)
それに対して今回私にご提示いただいた給与はZZ万円と、市場の水準から下回ります。
今回の私の給与と市場の水準とのギャップをどう理解すれば良いか、悩んでおります。
(ステップ3:相手の考えを聞く)
この点について、どのように感じられるか、アドバイスをいただけないでしょうか?
(特に気をつけた点)
「給与を上げて欲しい」と直接的に伝えることに抵抗感があるとのことだったので、「ギャップについて悩んでいます。アドバイスをください。」という言い方をMさんは採用しました。
これによって、自己主張をしたり相手方を責めたりするようなスタンスではなく、相手に敬意を示しつつ、一緒になって考えてもらうという姿勢を示すことができました。
「後日、Mさんからいただいたメッセージ」
「テツさん、先日はアドバイスいただき、ありがとうございました。予定通り給与交渉に臨んできました。」
「まずは事実を伝え、それに対する自分の考えを述べ、その上で相手の考えも聞かせて欲しいと伝えました。結果として、再検討したいと言って持ち帰ってくれました。」
「実際に給与が見直されるかどうかは分かりませんが、それよりも、今回こうしてちゃんと自分の考えを相手に伝えることができて、本当に良かったです。」
「自分の考えを伝えていなかったら、モヤモヤが続いていたし、間違いなく後悔していました。今は気持ちもスッキリして仕事に対してとても前向きです。何より、自分に対して自信を感じます。」
言いにくいことを伝えるスキルは、相手のためであり、自分のためでもある
言いにくいことを伝えるスキルは、事実をベースにして心理的安全性を担保しつつ、相手の考えと自分の考えとをすり合わせることに役立ちます。
Mさんのケースでは、Mさん自身のためになりましたが、仕事に対する前向きな気持ちを取り戻しており、結果として会社のためにもなっています。
この言いにくいことを伝えるスキルは、少し準備が必要ではありますが、相手のためになりますし、何よりも自分自身のためになるものです。
私自身も、過去に幾度となく使ってきました。
一番多かったのは、上司に対してです。
特に、私が外資系企業・日本支社の経営を任されていた際、日本最適を目指す私と、グローバル最適を目指す上司とでは、どうしても意見の対立が起きることが多くありました。
どちらも悪くないのですが、どうしても上司の方にパワーがあるものなので、部下である私が腹をくくって上申するというパターンになりがちでした。
ただ有り難かったのは、こういう伝え方のスキルを会社が研修・トレーニングとして提供してくれていたので、私もそれを積極的に活用していました。
ご興味ある方は、お声がけください。